記事の監修

能登谷加奈子
保有資格:ケアマネジャー、ソーシャルワーカー
専門分野:自立支援介護​

株式会社ポラリス 人事課労務研修チーム所属

ケアマネジャー、相談員の経験を活かして、自費事業(介護ツーリズムなど)のケアマネジメント、アセスメントを担当。
自立支援介護ケアマネジメントの専門家。

自立支援介護とは

自立支援介護とは、その人の「身体的」「精神的」かつ「社会的」自立を達成し、改善または維持できるよう介護という方法によって支援していくことです。
これは、竹内孝仁博士が提唱された介護の理論です。竹内先生は、1980年代から在宅高齢者のケア全般に関わり、従来のお世話型の介護が及ぼす弊害を踏まえ、「補完する介護ではなく、自立を支援する介護」という斬新かつ新しい介護を目指しています。現在においても、数々の高齢者自立支援の実績を残されています。

介護と聞くと日常生活のお世話をするイメージを持つ方が多いため、ご利用者様ができないことを介助するのは、一見とても親切に思われます。
しかし、ご利用者様が「できない」と決めつけて過剰な介護をしてしまうと、自分でできる能力を奪ってしまう可能性もあるのです。

また、ご利用者様自身でもできることがあるにも関わらず、介助してもらえるがためにご自分でやらなくなってしまうリスクもあります。そのような状況では、どんどんできることが減っていくこともあるのです。

実際、「歩行の自立に関しての施設職員の意識に関する研究」では、寝たきりのご利用者様へのアセスメントや検討の機会を設けることで、介護職員の歩行の自立の重要性が高まり、歩行支援からご利用者様の自立につながる可能性があることが分かりました。

転倒などの不安はあるものの、ご利用者様の主体性を尊重し、必要なサポートのみをすることで自立した生活に繋がります。

自立支援介護の4つの基本ケア

心身ともに健康でいるためには、水分・食事・運動・排便のケアが大切です。
これら4つがきちんとバランスよくできることで、自立した生活へ近づくことができます。
ここでは、自立支援介護の4つの基本ケアについてご紹介します。

水分ケア

1日に1500mlの水分を摂取することが大切です。
高齢者は感覚機能の衰えによって、のどの渇きを感じにくくなるため、水分を摂る機会が少なくなっています。
さらに、失禁の経験や、おトイレが近くなるからという思いから、水分を控える方もいらっしゃいます。

水分量が足りなくなると脱水症状だけでなく、認知機能の低下にも繋がることがあるので注意が必要です。
そのため食前や食中、おやつのときの水分補給を習慣にしましょう。

運動後やお風呂上がりに声掛けをすることも効果的です。
また水やお茶だけにこだわらず、ジュースやコーヒーなど好みのものでも構いません。

運動ケア

健康的な体のためには適度な運動が必要なので、1日に2kmの歩行ができるようにしましょう。
2kmといっても要介護高齢者の方からすると、かなりの運動量ですので簡単にはいきません。
ご利用者様の体の状態や、ペースに合わせてゆっくりと取り組むのが大切です。

歩く習慣をつけることによって、筋肉量が増えたりバランス感覚が良くなったりするので、転倒のリスクが低くなります。
また歩くことで適度な刺激が骨に伝わると、骨粗しょう症の予防にも繋がります。

食事ケア

1日で1500Kcalの食事を摂れるようにしましょう。
高齢になると食が細くなる方が多く、栄養不足になりやすい傾向にあります。
その結果、体力がなくなり、疲れやすい身体になって活動量も減ってしまいます。

また、高齢者は、歯が弱くなることでつい柔らかい食事に偏りがちですが、これは本来しっかり噛んで飲み込むという力がなくなっていくことに繋がります。
飲み込む力が低下することで、誤嚥性の肺炎になる確率も高まります。

固いものをよく噛んで食べる習慣を維持することで、認知症の予防になることも知られています。
しっかり噛む習慣とバランスの良い食事を心掛けましょう。

排便ケア

下剤などの薬を使わなくても、自然な排便がみられるのが理想的です。
高齢になると日中動かなくなることで、腸の動きが悪くなって便秘になる方が多くいます。
便秘になると腹痛や食欲低下に繋がるため、高齢者は特に注意が必要です。

だからと言って下剤を使用すると、身体に負担がかかることがあります。
そのため食物繊維の多い食事や飲料の摂取を心掛け、便意がなくても定時にトイレに座るなどの排便習慣を身に付けましょう。

介護施設ポラリスでの自立支援介護の取り組み事例

介護施設では、具体的にどのようにして自立支援介護を行っているのでしょうか?
ここでは、自立支援介護に特化したデイサービスを運営するポラリスの取り組み事例をご紹介します。

課題分析と計画

まずは、病院の医師や看護師などの専門職、ケアマネジャーなどから集めた情報、体力測定評価を元に、ご利用者様、ご家族様と面談して現在どのような状態にあるかを把握します。

今後、やってみたいことや目標、日常生活を送るうえでの困りごとを伺い、他者との交流やストレスの有無なども確認し、必要な情報から、解決すべき課題を分析して洗い出していきます。
そして、その課題に対するケア内容を細かく決めて計画書に落とし込んでいきます。そして、ケアを徹底して実践します。

自立支援介護の事例

自立支援介護の事例を、具体的な例を挙げて説明します。
たとえば、慢性的な便秘で下剤を常用しているご利用者様がいらっしゃったとします。
高齢者にとって薬は副作用のリスクがあり、薬を使用しなければ排便できないのは、健康上良くありません。

そのため食物繊維の多い食べ物や発酵食品を食べてもらうようにしたり、水分を摂ってもらえるよう声掛けを行います。
また、腸を刺激できるよう歩く量を増やしたり、毎朝トイレに行くことを習慣にしていただくのです。

しっかり記録を取って経過観察し、必要なケアを行っても自然な排便が見られないようであれば、歩く距離や機会を増やしたり、水分摂取量を増やしたりして、自然な形で排便できるようになるまでケアを続けていきます。
ただ単にお声がけして水を飲んでいただくのではなく、適切なタイミングや量でこまめにお勧めすることで行動していただきやすくなります。

自立支援介護のメリット

自立支援介護をすることで、ご利用者様だけでなくご家族様にもメリットがあります。
ここでは、自立支援介護のメリットを2つご紹介します。

QOL(生活の質)の向上

QOLとは「クオリティ・オブ・ライフ」の略で、快適な生活を送り、充実した生き方をすることです。
自立支援介護を実践することで、ご利用者様が自分ひとりでできることが増えると、自信に繋がってさまざまなことへの意欲が増します。
自分の意志で主体的に行動し、社会性が広がることで、豊かな生活を送ることができます。

ご家族様の介護負担の軽減

介護をするご家族様には、身体的・精神的に負担がかかります。多くの方は、ご自身の配偶者や親御様を介護しますが、介護のストレスから、良好な関係性が崩れたりすることも多いのです。

自立支援介護を実践することで、ご家族様の負担が軽減されます。ご自身でできることが増えると、介護にかかっていた労力や時間を、他のことに使うことができて余裕が生まれるのです。
また、生き生きと元気になれることで、家族間の関係性が良くなるのです。

自立支援介護の注意点

適切な自立支援介護を行うためには、サポートする介護職員の考え方も重要です。
ここでは、自立支援介護をするときの注意点をご紹介します。

ご本人の意思を尊重する

ケアやサポートをするときは、必ずご利用者様ご本人の意思を尊重しましょう。
ご本人が望まない形で一方的なケアをすると、信頼関係が築けず成果も表れにくくなります。

ご利用者様に寄り添って、ご希望や意向を伺いながら、ご利用者様自身の本来の価値観や人生観を探ることも大切です。
そのうえでご利用者様が自ら取り組みたいと思うような目標を設定したり、前向きになれるような声掛けをするなど、ご利用者様それぞれに合った工夫が必要です。

要介護度だけで判断しない

要介護度や既往歴などだけで、ご利用者様のことを判断しないように心がけましょう。
たとえば「要介護4だから自分でトイレに行くことは難しい」など、こちらで決めつけてしまってはご利用者様の可能性を潰してしまうことになりかねません。

あくまでも介護度は目安であり、状態は変化していくため、あらゆる情報からご状態を判断し、正しい状態を知り得たうえで、自立支援介護を行っていくことが理想的です。

数値は目安と考える

自立支援介護には4つの基本ケアがありますが、数値はあくまでもひとつの基準と考えましょう。
それぞれの体調や症状などによって、摂取すべき水分量などは異なります。
必要な水分摂取量の基準1500mlは最低基準量であり、ご利用者様のバイタルや症状を確認して摂取量を増やしていくことも必要です。

まとめ

今回は、自立支援介護について詳しくご紹介しました。
自立支援介護は、ご利用者様が自立した生活を送れるよう、必要なサポートを見極めることが大切です。
またご利用者様の意思を尊重しながら、課題を分析し、計画を立ててケアに取り組む必要があります。

株式会社ポラリスでは、高齢者の方が不自由なく生活が送れるよう、自立支援型デイサービスを運営しています。
ご利用者様が元気な姿になるのをサポートできるのは、大きな喜びにつながります。
自立支援介護にご興味のある方は、ぜひ求人情報をチェックしてくださいね。

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